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医療訴訟ってなに?《Column vol.16》

医療訴訟ってなに?《Column vol.16》

近年、介護医療現場における転倒転落、またそれに関する医療訴訟が話題となっています。医療訴訟がおこると、経済的・時間的・精神的に大きな影響がある上に、メディアで大きく取り上げられるなど社会的な影響が出ることもあります。

医療訴訟とは何なのか、医療従事者は何に気を付けて業務にあたることが必要なのかを、シリーズで掲載していきます。

第1回では、「医療訴訟ってなに?」をテーマに、我が国の医療訴訟の現状をご説明します。

そもそも医療ミスって何?

医療を行い、結果が悪かった場合、それははたして医療者の「ミス」なのでしょうか。医療行為の結果が悪かったことを示す用語に、「医療事故」「医療過誤」という単語があります。それぞれの定義は次の通りです。

医療事故とは

(1) 医療に起因して患者に不必要な害をもたらしたできごと(WHO, 2009)

(2) 当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの(医療法第6条の 10, 2015)

医療過誤とは

医師または医療従事者による過失もしくは技術の過度の欠如(WHO, 2009).医療の過程において医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務を怠り,これによって患者に傷害を及ぼしたとされる行為(厚生省,1999)

これらについて、日本医療安全学会ならびに医療の質・安全学会は、

医療事故:医療に起因して患者に不必要な害をもたらした出来事

医療過誤:医療の過程において医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務を怠り、これによって患者に障害を及ぼしたとされる行為のこと

と定義しています。

具体例をあげると次の通りです。

(医療事故)

・医師の手術中のミスにより、患者が亡くなった・後遺症が生じた

・使用してはいけない医薬品を投与してしまい、患者が死亡した起こした

・患者が病院内で転倒した

・患者が食事を誤嚥した

・医師・看護師が処置中に負傷した・感染した

(医療過誤)

・手術中のミスにより、患者が亡くなった・後遺症が生じた

・使用してはいけない医薬品を投与してしまい、患者が死亡した

医療訴訟って何?

医療過誤が生じた場合、医療従事者は、民事責任、刑事責任、行政責任を問われることになります。以下では、特に「民事医療訴訟」のことを「医療訴訟」を呼び解説していきます。

医療訴訟は,患者本人又はその遺族である原告が,医療機関である被告に対し,特定の医療行為によって被った損害の賠償を求めるという,損害賠償請求事件がその大部分を占めます。

医療者の過誤により生じた損害の補償を求めるものが法律の枠組みでは一般的ですが、明確な過誤が無くても結果が期待に反した場合や、結果が悪くなくても十分な事前の納得が得られないまま医療行為が行われた場合なども、患者・家族と医療者間の紛争を招くことがあります。

医療訴訟では主に、患者に生じた害が必要か不必要か、不必要な害が生じたとしてそれは医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務を怠ったと言えるのか否か、患者が被った害に対する賠償額はどのくらいなのかといった事柄が争われます。

なぜ前述のように医療事故や医療過誤といった用語を定義しなければいけないかというと、医療過誤に関しては(過失のない)医療事故との違いが、医療者が賠償責任を負うかどうかを決めるための境界線となるためです。

日本の医療訴訟の現状

日本における医療紛争の裁判処理手続には特別な定めはなく、通常の訴訟制度の仕組みの中で運用されています。医療訴訟は医学的な専門知識が必要となるため、裁判所は、医療訴訟を専門的に取り扱う「医療集中部」を設けて、審理の迅速化をはかっています。

我が国の医療訴訟新受件数は下図の通りです。平成8年に年間564件であった新規の訴訟件数は、その後徐々に増加し、平成11年に発生した2つの大きな医療事故(大学病院における患者と位置替え事件と、都立病院における消毒薬の誤注射により患者が死亡した事件)をきっかけに、マスコミによる医療バッシングを伴い大幅に増加しました。平成16年をピークにいったん減少し、近年は700件程度となっています。

参考: https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html

次に、診療科別の医療訴訟数を見てみましょう。

参考:https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html

その他にあたる医療訴訟は、介護・看護関連訴訟に該当し、近年件数が増加傾向にあります。

おわりに

今回の記事では、「医療事故と医療過誤という単語の違い」「医療訴訟でどのようなことが争われるのか」「日本の医事関連訴訟の現状」についてご説明しました。我が国では介護・看護関連訴訟の件数が増加傾向にあるため、医療従事者は注意して介護・看護にあたる必要があるといえます。

さて、実際に医療事故が発生した場合、どのような流れで紛争解決を図るのでしょうか。

「医療訴訟の流れに」について、今後の別記事にてご説明いたします。

(参考)

裁判所HP(2024/1/26最終閲覧)

https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html

医療法学入門 第3版 医学書院

日本医療安全学会/医療の質安全学会 医療安全用語集第1版

https://www.jpscs.org/wp-content/uploads/2023/05/Grossary_on_patient_safety_Japanese-English_20230509-1.pdf

この記事を監修しました

渡辺 莉代

渡辺 莉代 / 医学生/気象予報士

浜松医科大学法学教室に所属し、研究活動・学会発表を行っています。
本コラム連載を通して、学生の視点から医療訴訟や医療安全について考えていきたいと思います。

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