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《Column vol.21》パーキンソン病のすくみ足と転倒について

《Column vol.21》パーキンソン病のすくみ足と転倒について

パーキンソン病は我が国の指定難病にも登録されている代表的な神経難病の1つです。現在、65歳以上の100人に約1人が罹患する割合まで増加しており、世界的にも増加傾向にある現状は「パーキンソンパンデミック」と言われています。

主な症状の振戦(手先のふるえ)、筋固縮(筋肉の強ばり)、無動(身体が動かない)、姿勢反射障害(バランスを崩しやすい)は“4大兆候”と言われます。その原因は大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少して起こることはわかっていますが、なぜドパミンが減少するかはいまだに判明していません。

パーキンソン病による転倒は症状の軽い方でも3-5回/年起きると言われており、転倒・骨折を経験したことで日常生活の自立度が落ちる方も多くいらっしゃいます。

パーキンソン病の方が転倒しやすい原因は、姿勢反射障害の1つ“すくみ足”です。今回の記事では、このすくみ足の簡単な解説と転倒対策を述べていきます。

すくみ足とは?

パーキンソン病の姿勢反射障害には様々な症状があります。すくみ足はその1つです。すくみ足とは、「自分の意思に反して足が床にへばりついてしまい、1歩が出にくい状態」を指し、歩行中では下図のように歩幅が徐々に狭くなっていきます。

すくみ足が起こる状況は?

すくみ足は以下のような状況や環境で起こりやすいと言われています。

  • ・歩き始め
  • ・方向転換時
  • ・狭い場所を通る時、狭い場所に入る時(トイレやエレベーター)
  • ・目標物(いすやベッドなど)に近づく時
  • ・広い場所
  • ・精神的な緊張のある時(横断歩道や電車の乗り降り)

パーキンソン病は発症から緩やかに進行することが特徴で、すくみ足は症状の進行に伴って出現します。すくみ足などの歩行障害が出現すると、重症度を示すHoehn &Yahr重症度分類がⅢ度となり、中等度の状態にあると言われています。

また、パーキンソン病は薬が効いている時間と効いていない時間の身体の動きがまるで違う“on/off現象”と呼ばれる現象が起こります。すくみ足も薬の効いていない“off”の時間帯の方が強く現れます。このように、すくみ足はパーキンソン病の重症度や薬の効き目を把握できるほど、著明な症状かつ、患者さんの生活を困難にさせる代表的な症状と言えます。

すくみ足対策

ここからは、パーキンソン病の方に効果的なすくみ足対策(=転倒対策)をご紹介します。

聴覚刺激(声掛け)

パーキンソン病の方はリズムを取ってあげるように「1、2、1、2…」と声を掛けてあげる(聴覚刺激)と、すくみ足が出現せずに歩行が可能になる方が多いです。横についている介助者、または本人が声を出す必要があります。

私の臨床経験では、本人が心の中で唱えるのはあまり効果を感じない印象で、やはり“音”として感じる必要があるようです。また、目標物に近づく、または狭い個室(トイレやエレベーター)に入る際にすくみ足が出現する方には、「ここから◯歩で(目標)まで行きましょう」と声を掛けると、すくまずに近づくことができます。この方法は一緒に住むご家族でも簡単に取り入れられるので、是非試してみてください。

視覚刺激(線またぎ、足型シールなど)

自宅内の工夫では個人的に1番オススメです。平地ではすくみ足で歩行がおぼつかないパーキンソン病の方でも、階段では段差が目印になりスタスタと登ることができます。これを逆説的歩行と言います。これを利用して、廊下やすくみ足が起こりやすい場所にテープなどで線を引いてそれを跨ぐように歩いてもらうことで、すくみ足を抑えることができます。

また、足型のシールを床に貼ればそこに足を置いて歩くこともできるので、線またぎ同様の効果を得ることができます。

住宅改修

自宅の中ですくみ足が起こりやすい場所はトイレとベッド周りです。特にトイレのドアが開き戸の場合、①ドアノブを持ちながら後ろに下がる、②便座(目標物)に近づくため狭い個室へ進む、③方向転換をしてドアを閉める、と、すくみ足が出現しやすい条件が満載です。

住宅改修をする際には、まず開き戸を引き戸にすることをオススメします。それにより①の後ろ歩きがなくなるため、1つリスクが減ります。更に出入り口に縦手すりが有ればそこを掴んでドアの開閉ができるので、①と③が精神的に安定した状況で行うことができます。ただし住宅改修、特にドアの変更はかなり大掛かりになるため実現困難なことも多いです。そこで、先述した“線またぎ”が役に立ちます。ドアの前から便座までの動線に歩幅の間隔でテープなどを用い線を引き、それを跨ぐように便座まで歩いてもらえば、すくみ足が起こらず移動が可能です。

また、同様の方法はベッドや椅子へ近づく際も有効です。目標物が近づくとすくみ足が出現する方は、すくむ位置からベッドなどの目標物への歩行路に歩幅間隔でテープを貼ります。ベッドや椅子の場合、そこに座ることが目的なので座るための方向転換の足の運び方も考慮してテープを貼ることがポイントです。

横歩き

パーキンソン病の方は方向転換や狭い通路や狭い間口を通る時にすくみ足が出現しやすくなります。実はすくみ足は横歩きでは出現しにくいのです。つまり、下図のように、部屋から出て廊下を右に進む場合、廊下に出て方向転換をせずに、そのままの身体の向きで横歩きで進むことも転倒対策としては有効になります。

まとめ

今回のコラムでは、パーキンソン病の方の転倒の大きな原因となるすくみ足について、主に自宅でできる対策を中心にまとめてきました。今回の記事ではあまり触れていませんが、パーキンソン病の治療には適切な服薬とリハビリテーションが欠かせません。そこに自宅の環境整備と介助者のすくみ足への理解が加わることで、パーキンソン病の方の療養生活が少しでも安全・安楽になればと思います。

この記事を監修しました

岡川 修士

岡川 修士 / 理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級・地域ケア会議推進リーダー・介護予防推進リーダー

2010年に理学療法士として入職した病院では、急性期〜回復期のリハビリテーションに加え、住民対象の介護予防事業に携わっていた。現在は、訪問看護ステーションかすたねっとにて、訪問リハビリに従事する傍ら(株)Magic Shieldsのコラムを担当している。

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