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聞き慣れないけど日本の課題!マルチモビディティ(多疾患罹患)を考える《Column vol.51》

聞き慣れないけど日本の課題!マルチモビディティ(多疾患罹患)を考える《Column vol.51》

日本が高齢化社会に突入してかなりの年数が経過しました。2024年の高齢化率は29.1%であり過去最高を更新しています。人口の高齢化が進行したびたびニュースで取り沙汰されるのが、医療費の増加です。

なぜ高齢化が進むと医療費が増加するのか?その理由の一つが“マルチモビディティ(多疾患罹患)“です。これは、複数の慢性的な病気に同時にかかっている状態を指します。マルチモビディティの方は高齢者に多く、疾患ごとに専門科を受診することで、通院頻度が多くなり、処方される薬も多くなります。

今回は、この聞き慣れないけど大きな社会問題であるマルチモビディティについてお伝えし、最後に転倒との関係性についても述べたいと思います。

マルチモビディティ(多疾患罹患)とは?

マルチモビディティ(多疾患罹患)定義

明確な定義は定められていないのが現状です。しかし、多くの場合、2種類以上の慢性疾患に罹患している状態を指しています。マルチモビディティのパターン分析をした文献から、マルチモビディティとなる上位20位までの疾患のリストは明らかにされ、定義にすべき慢性疾患の参考になっています。

日本プライマリ・ケア連合学会誌2019,vol42,no.4
「プライマリケアにおけるmultimorbidityの現状と課題」より引用

日本人のマルチモビディティ

マルチモビディティの定義が定まっていないため、研究ごとに罹患している慢性疾患の数や対象者の年齢は異なるものの、全年齢層を対象にすると20〜30%、75歳以上の高齢者を対象とすると約65%の割合でマルチモビディティの患者がいると言われています。

このように、高齢化によりマルチモビディティの患者は増加すると考えられ、これは他国の研究でも同様の結果が出ています。では、マルチモビディティは我々の生活や健康にどのような影響があるのでしょうか?

マルチモビディティの与える影響

健康面

マルチモビディティの患者は、死亡率の上昇、生活の質(QOL)の低下、身体機能の低下など負の影響が示唆されています。

治療負担

マルチモビディティの患者は複数の疾患を罹患しているため、疾患ごとに専門科を受診する方が多く(例えば高血圧症は循環器内科、変形性膝関節症は整形外科など)、結果として、受診頻度が増加します。そして、疾患ごとに処方薬があり、服薬数が増え、中には1日10錠以上の服薬をしている人もいます。

他にも、予定外入院の増加も関係していると言われており、受診・入院、処方薬の増加が医療費の増加に影響しています。

マルチモビディティの対応

マルチモビディティは特定した疾患を指すものではないため、標準的な治療は各疾患に基づいて行われます。しかし、そのため服薬数が増加し、治療負担や副作用などの新たな健康被害が生じるというジレンマがあります。

マルチモビディティ対応の目的は「個人の治療負担を減らしQOLを改善すること」です。そのために重要なことは複数の医療機関の受診を減らすことです。そのためには医師と患者が意思決定の過程を共有することが重要です。日本では治療方針を決定する時にパターナリズムという「専門家におまかせ」姿勢の方が多く、診察室で患者が治療への希望や情報提供を求めることは心理的なハードルが高いと思いますが、患者側から切り出すことで治療の優先順位や目標が定まることがあります。

マルチモビディティと転倒の関係

ここからはマルチモビディティと転倒の関係について述べていきます。マルチモビディティでは複数の慢性疾患にかかっているため、服薬数が多くなると先述しました。服薬数が5剤以上になると、転倒率は上昇することがこれまでの研究でわかっています。

また、転倒に影響を及ぼす薬剤には睡眠薬、抗不安薬、抗精神薬、降圧薬、利尿剤などが含まれており、これらの薬剤はマルチモビディティの上位20位(高血圧、不安障害、うつ病、うっ血性心不全など)までに入る疾患に対するものです。

つまり、服薬内容・量とも、マルチモビディティの患者は転倒リスクの高い状態と言えます。

また、反対に転倒が引き金となり、マルチモビディティとなる可能性もあります。転倒を経験すると、骨折に至らなくとも転倒への不安から閉じこもりがちになる“転倒後症候群”と呼ばれる状態に陥る方がいます。転倒後症候群から不活動な生活となり、筋力低下や認知機能の低下を引き起こします。これが変形性関節症や認知症というマルチモビディティを構成する疾患につながる可能性があります。

まとめ

高齢化に伴い、医療費増加の観点から転倒・骨折と同様にマルチモビディティも大きな社会課題となっています。マルチモビディティのような慢性疾患にかかると服薬だけでの完治は困難です。まずは生活習慣を見直し、予防することが大きな対策と言えるでしょう。1人ひとりの意識の変化が、将来のご自身の治療負担を減らし、結果として日本全体の医療費の削減につながると思います。

この記事を監修しました

岡川 修士

岡川 修士 / 理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級・地域ケア会議推進リーダー・介護予防推進リーダー

2010年に理学療法士として入職した病院では、急性期〜回復期のリハビリテーションに加え、住民対象の介護予防事業に携わっていた。現在は、訪問看護ステーションかすたねっとにて、訪問リハビリに従事する傍ら(株)Magic Shieldsのコラムを担当している。

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