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高齢者が転倒しやすい自宅の危険エリアとは?《Column vol.62》

高齢者が転倒しやすい自宅の危険エリアとは?《Column vol.62》

1. はじめに

転倒事故

家族の中に高齢者がいると、自宅での転倒事故が不安材料となることが多いです。高齢者は筋力の低下や骨密度の低下によって、若い頃よりも転びやすく、万一転倒した場合に重傷を負いやすいと言われています。このようなリスクを軽視すると、日常生活のなかで思わぬ大怪我を引き起こし、本人が自立して暮らす時間を大きく奪う可能性があります。

そのため、高齢者が安心して生活できる住まいづくりは、多くの方の共通した願いではないでしょうか。実際のところ、転倒が起きやすいエリアは意外に身近にあり、ちょっとした段差や床の滑りやすさなどが見過ごされがちです。現状をしっかり把握し、具体的な転倒予防対策を講じるのは、高齢者の生活の質を高め、さらに家族全体の精神的な負担を軽減する大切なステップとなります。

しかし、「どこを重点的に安全対策すればよいか」「具体的な高齢者用スリッパや転倒防止グッズにはどのようなものがあるか」といった疑問を抱える人も多いかもしれません。実は、高齢者 転倒予防には、家の中のあらゆる場所に潜む小さな危険を洗い出すプロセスが欠かせません。そして、段差の解消や照明の改善といった住宅改修から、転倒予防マットの導入まで、多くの安全対策があります。

本記事では、高齢者が転倒しやすい場所を体系的に特定し、転倒事故 原因を明らかにすると同時に、その予防策を具体的に検討します。さらに、転倒リスクを軽減するための実用的視点や、転倒予防研究の成果を基にした対策についても触れながら、自宅における危険性を可能な限り低減する方法を提案していきます。

2. 高齢者が転倒しやすい場所の特定

立ち入り禁止

高齢者の転倒場所として特に注意が必要なエリアは自宅です。歩き慣れたマイホームであっても、庭や玄関、廊下や階段など、意外と段差が残っていたり、夜間の照明が不十分であったりすることが少なくありません。加えて、湿気の多い浴室や、夜間にトイレへ向かう際のベッド周りなどは、転倒のリスクが高まる傾向があります。転倒事故の統計からも、自宅での転倒事例が多いことは明らかであり、家のなかの安全対策こそが、最も早急に取り組むべき課題といえます。

同じ屋内でも、カーペットやマットの端がめくれているかどうか、靴の着脱スペースが狭くないかといった環境により、転倒リスクは大きく変動します。そのため、それぞれのエリアごとに注意ポイントと予防策を明示し、日ごろから改善を図っていくことが大切です。

また、ガイドラインでは家庭内のどの部分を優先的に改修すべきかを丁寧に考える重要性が説かれています。しっかりとポイントを把握することで、予算や家の構造に合わせた対策が可能になり、結果的に効果的な転倒予防が行えます。さらに、家族が主体的に参加し、本当に必要な改修を適切に行うことで、長期にわたり安心して暮らせる環境を作り上げられるでしょう。

以下の章では、高齢者がどのような場所で転倒しやすいかを細かく整理していきます。どのエリアでも、転倒予防を目的とした敷物を導入したり、高齢者 転倒予防 環境整備を意識したりと、具体的な対策が考えられます。ぜひ、転倒予防プログラムの一環として、安全性向上に役立ててみてください。

2.1. 庭:屋外のリスクエリア

屋外空間は意外に着目されにくいですが、高齢者が転倒しやすい場所として庭は外せません。庭やポーチ、縁側といったスペースは、土や砂利、階段状のアプローチなど、足元のコンディションが平坦でない可能性が高いのです。

まず注意すべきは、歩行面の凹凸や、段差の明確化です。特に、舗装が十分でない庭では、わずかな窪みや盛り上がりが存在するだけで、足を取られやすくなります。転倒事故の原因のひとつには、わかりにくい段差や暗い時間帯での歩行が挙げられるため、高齢者にとって危険の芽をつむには段差を解消するか、屋外でも明るい照明を確保できるようにすると良いでしょう。LEDのセンサーライトや庭用の街灯を設置するなど、屋外の照明強化は転倒予防 照明の観点でも有効です。

また、転倒事故を防ぐ上では、高齢者用スリッパや屋外向けの転倒予防シューズを用い、足元が滑りにくい素材を選ぶことも大切です。特に高齢者は足腰が弱っているため、バランスを崩すと立て直しが難しくなります。転倒防止グッズとして、杖の先端部分に滑り止めが付いているタイプを使うのも効果的です。さらに、アプローチや階段部分に手すりを設置するなど、住宅改修の観点で段階的に対策を進めることをおすすめします。

そして、植木やプランターなどをレイアウトする際は、歩行動線を広めに確保し、視界を妨げない位置に配置するのが望ましいです。庭の障害物を減らす工夫をすることで、自宅 転倒リスクを大きく減らせるでしょう。もし庭に勾配がある場合は、平坦に整地するか、スロープ設置を検討してもよいかもしれません。

なお、庭に出る際は履物を履き替えるケースが多いため、靴の脱ぎ履きでつまずきがちな点にも配慮してください。ベンチや手すりを設け、安定した姿勢で履き替えを行えるようにすれば、安全性が高まります。

2.2. 玄関とホール:出入りの危険ポイント

玄関やホールは、高齢者が日々通る場所でありながら、意外に転びやすい危険ポイントでもあります。自宅に入ってすぐの段差はもちろん、靴を脱ぎ履きする動作でバランスを崩し、転倒につながってしまう事例も少なくありません。転倒事故の統計によれば、室内外への出入り時に起きた事故割合が無視できないことが示されています。

まず、玄関にある上がり框の段差解消を検討してください。段差がある場合には、スロープ状にしたり、手すりを設置したりすることでリスクは大きく減少します。バリアフリー化は住宅改修としても優先度が高く、必ず推奨される対策です。また、玄関マットがめくれたりずれたりしているとつまずきやすいので、裏面に強力な滑り止めが付いているタイプに交換するのも効果的です。

さらに、靴の置き方や収納スペースの確保も大切です。靴が玄関の床一面に散らばっていると、足を取られて転ぶ恐れがあります。靴を整理する棚を使う、あるいは突っ張り棒などを活用して簡易的に収納場所を追加するなどの工夫をして、床の見通しをよくしましょう。転倒リスクを減らすためには、わずかな片づけであっても大きな効果が期待できます。

夜間や薄暗い夕方に出入りする機会もあるため、照明の向上は不可欠です。常夜灯や明るいLEDライトを玄関やホールに取りつけると、足元がはっきり見えるようになります。少しの暗さが足元の不確かな踏み出しにつながり、転倒を招くことがあるので油断は禁物です。

最後に、靴の脱ぎ履きの動作を安定させるためのベンチや椅子の設置もおすすめします。座ったまま靴を履けるようにしておくと、バランスを崩しにくくなり、大きな効果が得られるでしょう。これらの対策を総合的に導入することで、玄関とホールという生活の出発点を安全なエリアへと変えられます。

2.3. リビングと居間:家庭内の中心でのリスク

家の中心となるリビングや居間は、高齢者が長時間を過ごす場所でもあります。家族との団らんやテレビ鑑賞など、日常生活の大部分を占める空間ですが、慣れすぎているために足元の整理が行き届かず、見落としがちな転倒要因が多く潜んでいます。

まず、家具配置の視点として、ソファやテーブルのレイアウトを見直し、足の引っかかりを抑えることが重要です。たとえば、テーブルの脚やカーペットの端に余分な出っ張りがあると、うっかりつまずきやすくなります。敷物を使う場合には、裏面がしっかりと滑り止め加工されているタイプを選ぶのがよいでしょう。

加えて、照明の配置には十分配慮する必要があります。照明が不足すると、視野が暗くなり、段差や荷物が見えにくくなってしまいます。部屋全体をまんべんなく照らすシーリングライトやスタンドライトに加え、足元を照らす補助照明も検討すると安心感が高まります。視界がはっきりするだけでも、自宅 転倒リスクはぐっと抑えられます。

さらに、座った姿勢から立ち上がる瞬間も要注意です。加齢による筋力の低下や関節可動域の低下から、一息で立ち上がれずバランスを崩す方が少なくありません。そのため、立ち上がりやすい高さの椅子や、肘掛けがしっかりしたソファを選ぶとよいでしょう。こうした安全対策を講じることで、日常動作の見直しにより、転倒の原因の一つである急な体勢の変化にも適切に対応できるようになります。

最後に、部屋の整理整頓はあなどれません。小さな物やコード類が散乱していると足を取られるリスクが高まりますし、突然の来客などで慌ただしく動くと、そのままつまずく危険も増大します。家族全員がこまめに片づけるよう習慣づけることで、リビングや居間を常に安全な状態で保ちましょう。

2.4. 廊下と階段:移動中の隠れた危険

部屋と部屋を結ぶ廊下は、一見すると障害物が少なく安全に思えますが、高齢者にとっては狭い空間で遠くまで続く通路であり、注意を怠ると転倒リスクが高まります。特に急いで移動しようとしたり、夜間に照明を付けずに歩いたりすると、見えづらい段差や小物につまずきやすくなります。

改善策としてよく挙げられるのが、手すりの設置です。壁沿いに手すりを取り付けるだけで、歩行の安定感が大きく向上し、自宅 転倒リスクを一気に下げられます。特に、長い廊下や曲がり角のある廊下では、適切な位置に手すりを配置することで、体を支えやすくなるでしょう。また、夜間は照明センサーや常夜灯を活用し、暗い時間帯でも足元がしっかり見えるようにしてください。転倒防止グッズとして設置可能なLEDフットライトも安価ですぐに導入できる対策です。

階段はさらに危険度が高いエリアです。重症事例の多くは、階段からの転落によるものだともいわれています。したがって、階段のステップに滑り止めを貼ったり、両サイドに手すりを設けたりなど住宅改修の観点から対策を強化する必要があります。

さらに、階段の踏み板に明暗をつけることも、対策として知られています。濃淡やラインテープで段差の輪郭がわかりやすくなれば、一歩一歩の安全性が高まります。加えて、階段の入口と出口に十分な照明を確保することも忘れないでください。照明の位置や光の強さが不十分だと奥行きを見誤りやすく、転倒リスクを高めてしまいます。

長年住み慣れた家の廊下や階段には、高齢者本人や家族も油断しがちです。しかし、ほんのわずかな工夫で転倒の可能性をぐっと下げられます。簡易的な措置も多いため、手頃なところから順次取り入れて安心できる環境を構築しましょう。

2.5. 浴室と脱衣所:滑りやすい湿った場所

浴室や脱衣所も転倒が多く発生します。水で床が濡れるだけでなく、石けんやシャンプーなどの洗浄成分が床に付着することで、想像以上に滑りやすい状態になります。特に入浴中は衣服を身につけていないことで転倒の衝撃が直接的に体に加わるため、より骨折リスクが高くなります。

まず、浴室の床材が滑りにくいかを点検してください。最近では滑り止め加工が施された床材が市販されており、住宅改修を行う際に採用されるケースが増えています。また、シャワーチェアを置いて座ったまま洗髪できるようにしたり、浴槽の出入りで体を安定させるために手すりを設置したりすることも推奨される有効な取り組みです。

脱衣所も油断は禁物です。入浴後は体温が上がり、一時的に立ちくらみを起こしやすくなるため、そこでバランスを崩して転倒するおそれがあります。床の滑り止め対策を講じるとともに、衣類を脱ぎ着しやすいようイスを置いておくと、安心です。照明についても、脱衣所の明るさを十分に確保し、夜間でもはっきりと見える環境を整えることが、照明計画の基本です。

また、湯上がりは足元に水滴が残りやすいので、バスマットを拭きやすい素材のものに替える、あるいはこまめに交換して湿りにくい状態を維持することが重要です。乾燥した状態を保つだけでも、転倒リスクが減少します。さらに、バルブ式の給湯操作をレバー式に切り替えるなど、細やかな安全対策も検討してください。操作を楽にすることで、転倒の原因となりうる無理な体勢をとらずに済むからです。

このように、安全対策を意識した浴室と脱衣所の整備を進めれば、安心して入浴できるようになるでしょう。日々の清潔な生活を保ちつつ、介護予防にもつながるため、家族にとっても負担が軽減されるはずです。

2.6. ベッド周りと寝室:夜間の見落とされがちな危険

夜間や早朝の動作が多いベッド周りや寝室は、高齢者が転倒しやすい場所の代表格です。起床時や就寝時は特に体が不安定になりやすく、足元がしっかりしていないと突然の転倒につながることが珍しくありません。プライベート性の高い空間ほど注意が疎かになりがちですが、ベッド周りと寝室の安全対策は非常に重要です。

まず、ベッドの高さは適切でしょうか。あまりにも低すぎたり、高すぎたりすると、立ち上がる動作や横になる動作の際にバランスを崩しやすくなります。高齢者向けには、ふくらはぎが床と垂直になるくらいの高さが望ましいとされています。また、壁側にベッドを寄せることで、寝返りなどで落ちるリスクを減らすことができます。

次に、寝室内の動線を整理し転倒リスクを減らす工夫をしましょう。床に物が散乱していたりすると、夜間トイレへ向かうときにつまずきやすくなります。コード類や小物をきちんと整理しておく習慣づけが大切です。スリッパが脱げてしまうと余計に足元が不安定になるため、かかとが固定されるルームシューズを揃えておくと安心です。

さらに、夜間の視界が悪いと感じる場合は、常夜灯を導入したり、床近くに低ワット数の照明を置いたりして、周囲の状況を把握しやすくする工夫が有効です。視覚情報の確保こそが転倒防止の鍵になります。また、起床時は立ちくらみなどでフラつくことが多いため、ベッド横に掴まれる手すりや固定式の家具を配置するだけでも安全性は大幅に向上します。こうした細やかな配慮を行うことで、寝起き時の不安定さを軽減できます。結果的に、本人も家族も夜間や早朝の転倒を心配する時間が減り、より安眠できる環境を実現できるでしょう。

2.7. トイレとバルコニー:日常の小さなリスクエリア

トイレは他の部屋と比較してスペースが狭く、ドアを開閉しながらの出入りでバランスを崩しやすい場所です。特に夜間に急いで駆け込む場合や、用を足した後に立ち上がる瞬間などは安定性が低下しやすく、重点的に対策が必要なエリアの1つです。

まず、トイレ内に設置する手すりの数や位置は適切でしょうか。両サイドに手すりがあると、腰を下ろす・立ち上がる動作が安定しやすくなります。また、ウォシュレット操作パネルなどを扱いやすい位置に移動させて、身体をねじる負荷を減らすことも重要です。さらに、床に段差がある場合は、バリアフリー化を検討するか、少なくとも目立つマークやカラーを施して注意喚起を行うと転倒リスクは格段に下がります。

バルコニーやベランダ、縁側は、ほんの短時間しか使わないという方も多いかもしれません。しかし洗濯物を干す動作や、布団を干すときの昇降動作などで足を滑らせやすいエリアでもあります。特に、目的に集中して急いでいる時は注意が散漫となり、転倒事故を引き起こしやすいのです。そこで、バルコニーの床材に滑りにくい塗装やマットを敷く、手すりの高さを見直すなどの安全対策が有効になります。

日当たりが良い場所だからこそ、強い日差しや照り返しで視界が乱れ、転倒の要因になることも考えられます。そのため、バルコニーは眩しさを軽減する工夫をするのも一案です。ブラインドやシェードを取り付けて光を和らげるだけでも足元が見やすくなるため、対策の一環として検討してもよいでしょう。

このように、トイレやバルコニーといった、短時間使用の場所でも高齢者にとっては小さなリスクが積み重なっていることがあります。ほんの少しの段差や床の状態の変化が、大きなケガにつながる恐れがあるため、抜かりなく確認しながら対策を進めていきましょう。

3. 転倒事故の原因とその影響

原因と対策

ここまで、高齢者が転倒しやすいエリアについて整理してきましたが、そもそも転倒の原因にはどのような要素があるのでしょうか。自宅であっても段差や敷物のズレ、暗い照明など、多種多様な危険が重なった時に大きな事故が起きやすいのです。また、高齢者が転倒すると重症化しやすい理由や、その後の日常生活に及ぼす影響についても明確に理解しておく必要があります。ここからは、転倒対策を考えるうえで押さえておきたい原因と、その影響について説明します。

3.1. 主な転倒原因:段差と照明

転倒事故の引き金になりやすいのが、住居内外の細かな段差と不十分な照明です。玄関の上がり框や庭の小さな起伏、廊下と部屋の間にあるわずかな高さの違いなど、高齢者にとってはどれも転倒環境になり得ます。段差は慣れていると思っていても、年齢とともに筋力や視力の低下で認識が遅れ、つまずきやすくなるのです。段差解消が実施できない場合であっても、目立つ色を塗り照明を当てることで注意を促すことが可能です。

照明の暗さも大敵です。若いうちは多少暗くても物の形を捉えられますが、高齢になると瞳孔の反応速度が遅れるため、より明るさを必要とします。特に廊下・階段・玄関などの移動経路や、夜間に使用する寝室・トイレなどにも十分な光が届くようにしましょう。センサーライトや常夜灯を導入することで、点灯の手間なくすぐに足元が見え、転倒防止に大きく貢献するはずです。

こういった環境面だけでなく、高齢者自身の身体的要因も原因の一つとなります。筋力低下や関節可動域の低下などが重なると、物理的に足が上がりづらくなり、わずかな段差でも転びやすくなります。日頃の軽い運動やバランス訓練を推奨し、身体機能を少しでも向上させる取り組みも有効です。

これら主な原因に対し、適切な住宅改修や適正な照明強化、高齢者用スリッパやルームシューズなどの転倒防止グッズを導入すれば、転倒リスクを飛躍的に下げられます。環境面と身体面の両視点から原因を分析し、総合的に対策を取ることが必要です。

3.2. 起床時の不安定さ:寝起きのリスク

起床時は体がまだ温まっておらず、血圧や脈拍が安定するまでに時間がかかるため、高齢者にとって最も注意が必要な時間帯の1つです。夜間のトイレに行こうとしてベッドから立ち上がる際にフラつく、翌朝布団から起き上がったときにめまいを感じるなど、日常的に起こりがちな場面で転倒事故を引き起こす可能性があります。寝起き直後は筋力が十分に発揮できず、すぐに歩き出そうとすると脚がもつれて転倒するケースが多いのです。

このようなリスクを下げるには、目覚めてすぐに立ち上がらず、ベッドの縁にしばらく腰掛けて落ち着いてから行動を始める習慣をつけることが効果的です。急に血圧が変動しないよう呼吸を整えてから動くことが大切です。また、ベッドからトイレや洗面所へ移動する動線をできるだけ短くすることや、手すりの設置も、転倒リスクを大幅に軽減する方法です。

大きな家具が近くにあっても、それを頼りに集中的な体重移動を行うと危険な場合があります。固定されていない小さなテーブルや椅子ではかえって転びやすくなる恐れがあるため、身体を支える補助具は壁にしっかり固定された手すりなどが理想的です。夜間に起きる際の照明確保も忘れてはならず、常夜灯によって視界を確保すれば、次の動作に落ち着いて移れます。

こうした起床時の注意点は、小さなテクニックの積み重ねですが、非常に重要度が高い事項です。無理のないペースで体を動かし、足元をしっかりと確認できる環境を整えるだけでも、転倒リスクを大幅に下げることができます。

3.3. 転倒による主な怪我:骨折のリスク

高齢者が転倒することで懸念される怪我の中でも、骨折は深刻な事態を招くことが多いと知られています。年齢とともに骨密度が低下し、骨が折れやすくなっているため、一度転んだだけでも背骨や肩、太腿の付け根などに大きなダメージを負う危険性が高まります。特に太腿の骨折は、治療に長期の入院や手術が必要になる場合が多く、その後の長期リハビリが不可欠となるため、家族にも大きな負担となります。

このような骨折リスクがもたらす影響は、身体面だけにとどまりません。高齢者の心身は怪我をきっかけに急速に衰えることがあり、自立した生活を続けるのが困難になるケースが少なくありません。転倒がきっかけで寝たきりになり、そのまま介護が必要になってしまうという事例も報告されています。また、本人だけでなく家族全体の生活リズムが一変し、精神的な負担も大きくなるのです。

だからこそ、転倒防止グッズを活用しながら、自宅の安全対策を徹底することが重要になります。家族としても、高齢者用スリッパを用意する、転倒予防マットを適所に敷くなど、小さな積み重ねが重大な怪我を防ぐ第一歩です。さらに、転倒による骨折を防ぐうえで、日常的な筋力維持や適度な栄養摂取も欠かせません。

転倒事故の原因を解消できる環境をつくり、骨折のリスクを低下させることで、高齢者の生活の質や家族の負担を大きく軽減することにつながります。さまざまな対策を組み合わせて取り入れれば、高齢者の自宅での暮らしをより長く、より安心なものにできるのです。

4. 転倒予防のための実用的対策

事前準備

ここまで、高齢者が転倒しやすい場所と、その背景にある原因や影響を探ってきました。転倒は一度起こってしまうと大きな後遺症につながりかねず、高齢者だけでなく家族全体に大きな負担を強いることになるため、早めの対策が肝心です。そこでここからは、実際の暮らしの中ですぐに活用できる具体的な安全対策を紹介します。

各種転倒防止グッズの使用や高齢者 住宅改修などの物理的な対策に加え、日常的な体力づくりなど、ソフト面の支援もあわせて検討することで、より効果的な転倒予防が可能となります。さらに専門家のアドバイスを取り入れることで、最新の転倒予防マットや転倒予防ルームシューズなどの商品情報も得やすくなり、それぞれの家庭に最も適した方法を選択しやすくなるでしょう。

以下の各章で解説する対策は、実践例を中心にまとめています。たとえば、古い床材を変える、あるいは適切な手すりを設置するなど手間のかかる改修もあれば、照明を増やしたり、ちょっとした敷物に工夫を凝らしたりするだけで大きくリスクを減らせるケースもあります。身近なところから取り組んでみてください。

4.1. 家の改修:段差の解消と滑り止めの設置

本格的な高齢者 住宅改修として、まず最初に挙げられるのが段差の解消です。例えば玄関の上がり框をフラット化したり、廊下と各部屋の間の段差をなくしたりする工事は優先度の高い対策です。バリアフリー設計が可能であれば、車椅子や歩行器の利用にも備えられるため、将来的な介護リスクの軽減にもつながるでしょう。

また、階段や浴室などどうしても段差が残る場所については、滑り止め素材を活用するのがおすすめです。階段の踏み板に専用の滑り止めテープを貼ったり、浴室に滑り止めマットを敷いたりすることで、転倒事故 原因の一つである「滑る」という問題を大幅に緩和できます。さらに、手すりの設置も効果抜群です。特に急な階段や曲がり角には両側に手すりがあると、上り下りの際に体をしっかり支えられ、転倒リスクが劇的に下がります。

床の素材も見直す価値があります。畳やフローリングは、一部が劣化すると段差や凹凸ができやすく、思わぬ転倒のきっかけとなることがあるからです。適切にリフォームを行い、平坦で滑りにくい床材に交換すれば、安全対策としても有効なうえ、お部屋全体の雰囲気も向上する場合があります。もし大幅なリフォームが難しい場合でも、痛んだ部分だけでも補修するなど、部分的な改善を試みましょう。

予算や時間に余裕がない場合は、小さな改修から始めるのも良い手段です。例えば、段差の始まりに黄色のテープを貼って注意を促す、階段や玄関にセンサーライトを付けるなど、簡単な対策でも一定の効果があります。

4.2. 照明と視界の改善:夜間の安全確保

暗い部屋や廊下、階段などでは、足元の段差が見えにくいだけでなく、小さな障害物に気づけないことも多いため、転倒リスクを高めます。視力が低下した高齢者にとっては、十分な明るさと、色のコントラストが確保された環境が必要です。

まず、各部屋や廊下にLED照明を導入してみてはいかがでしょうか。消費電力を抑えながらも明るさを確保でき、故障しにくいのが特徴です。合わせて、センサーライトを活用することで、部屋に入った瞬間に自動で照明が点灯し、足元がすぐに見えるようにできます。夜間や早朝に突然動く際には、ライトのスイッチを探す手間がなくなるため、非常に有効です。

さらに、光の色合いも考慮してください。暖色系の光は落ち着く反面、くっきりとした視認性がやや低下する可能性があります。一方、昼白色の光は鮮明に物の輪郭を捉えやすいですが、部屋によっては冷たい印象を与えることがあります。用途や時間帯に応じて照明を切り替えられる調光システムも有効です。

照明だけでなく、視界の妨げになるものの撤去や整理整頓も欠かせません。窓付近にカーテンや家具が邪魔になっていると、自然光を取り込みづらくなる場合があります。室内が明るければ、日中でも危険物を見逃しにくくなるのです。

4.3. 安全なベッドと居住空間の整備

高齢者の生活のなかで、最も頻繁に使う家具のひとつがベッドです。安全性を高めるには、まず適切なベッドの高さを選ぶことから始めましょう。低すぎるベッドは立ち上がる時に大きな負担がかかり、高く設定しすぎると足を下ろしたときに不安定になるため、適度な高さが重要です。また、ベッドの位置を壁に寄せるだけでも、一方向に転落するリスクを下げられます。

居住空間の整備においては、床に物が散乱しないよう整理整頓を徹底することも欠かせません。さらに、出入り口には段差があれば解消し、部屋と部屋の間に開き戸ではなく引き戸を採用することで、転倒リスクを低減できます。

また、足元や家具の角にクッション材を装着することで、もし転倒したとしてもダメージを最小限に抑えられます。高齢者 安全対策としては細やかな気配りですが、予防的な視点から考えると有効な措置です。最終的には、高齢者本人だけでなく家族にも安心してもらえるような空間づくりを目指し、転倒対策を継続的にアップデートしていくことが望まれます。

4.4. 適切な場所に「ころやわ」を設置する

「ころやわ」は、転倒予防グッズの一種で床に敷いて活用することで転倒時の衝撃の軽減を図る目的があります。

具体的には、廊下や玄関、寝室や脱衣所に設置すると効果的です。万が一転倒してしまったときでもクッション性が衝撃を吸収してくれます。

さらに、部屋全体に敷き詰めるのではなく、要所要所の衝撃が大きい場所にポイント的に敷くことで、効率よく転倒対策が実現できます。たとえば寝室のベッド横や、キッチンの作業スペース付近など、立ち上がりやすい場所に敷くと効果的です。

「ころやわ」のようなマットを導入する際は、素材や厚み、サイズなどを吟味し、敷く場所との相性を見極めることが大切です。うまく使いこなせば、家の中でも安心して移動できる環境がさらに整うでしょう。

5. 結論:安全な居住環境の構築と家族の安心

住居環境

自宅は長年住み慣れた空間だからこそ、油断が生じやすく、思いがけない場所に転倒のリスクが潜んでいます。一方で、住環境整備をすることでかなりのリスクを未然に防ぐことが可能です。

もちろん、家の改修には予算や労力がかかりますが、小さな対策から取り入れることで、負担を少しずつ分散しながらリスクを減らすことができます。また、筋力維持や、生活習慣の見直しなど、ソフト面の支援もあわせて実践することで、住み慣れた家での生活を長く続けやすくなります。

高齢者が元気に自宅で過ごすことは、本人の生活の質(QOL)向上だけでなく、家族の精神的負担の軽減にも大きく寄与します。親の健康と安全を願う子世代にとっても、転倒リスクを最小化することは、将来の介護負担を軽くする投資ともいえるのではないでしょうか。対策が必要な場所は多岐にわたりますが、要点を押さえた改善を継続すれば、確実に転倒事故のリスクを下げられます。

安全な居住環境は、高齢者にとっても家族にとっても心の支えになります。大切なのは、一度きりの改修や対策で終わらせるのではなく、日々の点検や声掛けを行い、常に最適な状態を維持することです。今回紹介した内容を参考に、ぜひ身近なところから改善を進めてみてください。

この記事を監修しました

杉浦 太紀

杉浦 太紀 / 取締役・理学療法士

転倒予防指導士・福祉住環境コーディネーター2級・整理収納アドバイザー2級

2010年から刈谷豊田総合病院で10年間勤務し、急性期から慢性期まで幅広い分野のリハビリテーションを経験。 2016年よりグロービス経営大学院に通学し、知り合った仲間とともに、株式会社Magic Shieldsを共同創業。

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