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QOL(生活の質)について考える《Column vol.64》

QOL(生活の質)について考える《Column vol.64》

QOLという言葉をご存知でしょうか?

“Quality of Life“の略称であり、日本語では「生活の質」と訳されることが多い言葉です。医療の役割は「生命を救うこと」にもちろん重きを置いていました。

その成果として医学の発展や衛生環境の改善により、日本を含む多くの国で寿命は延伸してきました。そして、長寿を達成し高齢化社会となった現代では、QOLを維持することも医療の重要な役割となっています。

今回の記事では、QOLとは何か?QOLは測定できるのか?転倒とQOLの関係などについて述べていきます。

QOLとは?

QOLについて世界保健機関(WHO)では、「生活の質を、個人が生活する文化や価値観の文脈、また個人の目標、期待、基準、関心との関連で、人生における自分の立場を認識すること」と定義しています。つまり、QOLは健康状態だけでなく、個人の文化や価値観、人生における役割などかなり多面的な要素が含まれます。

個人的にはQOLを維持するということは、「“その人らしさ”をいかに保つことができるか」と考えています。例えば、高齢者や障がい者は、身体機能の低下や慢性疾患の罹患など、健康状態にQOLが大きく影響していることは事実です。元気な頃と同じように身体が動かなくなり、これまで当たり前に・楽しみにしていた活動ができなくなった…という喪失感は辛いことだと想像できます。しかし、個人が大事にしている価値観や家族などの人間関係が失われるわけではありません。病体験が価値観を変え、自分が本当に大事にしたいことに気づく、ということもあります。

ただし、「あなたにとってQOLを高めるために重要なことはなんですか?」と問いかけても、なかなかわかるものではありません。QOLはその人の当たり前の日常の中にあります。なので、医療職など支援者は対象者自身のことを深く観察し、理解することが求められます。

QOLは測定できるのか?

QOLは私たち医療者にとって、今では欠かせない介入効果の指標となっています。これまで、QOLは個人の価値観や状態に左右されることから、定量的な測定や比較が困難と考えられてきましたが、最近では研究が進み、さまざまな測定方法が開発されています。

今回はWHOが推奨している2つの評価法を紹介します。

WHO-QOL-26

WHOは、はじめに「WHOQOL」というQOLの評価方法を開発しましたが、この評価方法では質問項目が100問もあることから、短縮版である「WHO-QOL-26」が発表されました。その名の通り質問項目は26問まで絞られ、各臨床現場で使用しやすいものになりました。項目の内訳は、①身体的領域(日常生活動作、痛みと不快感、活力と疲労、医療への依存度など)、②心理的領域(自己肯定感、ストレスの有無、宗教観、思考など)、③社会的関係(人間関係、社会的サポート、性的活動など)、④環境(金銭、治安、文化的活動、交通手段など)となっており、得点形式の回答を得て、点数を算出する評価方法です。

SEIQoL(Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life)

SEIQoLは、「個人の生活の質評価法」と翻訳され、WHOが推奨するQOL評価法の一つで、慢性疾患、難病、緩和ケア領域におけるQOL評価方法として世界中で使われています。この評価法では、個人の価値観の“重みづけ”を行うことで、難病や終末期患者のような治らない状況であっても、新たな生活(人生)を見つけていく、または現状に順応していく過程を理解することができます。ただし、利用するには対象者の重要としている生活分野を聞き出す必要があるため、適切な面接技術が必要となります(*詳しくは、SEIQoLのホームページをご覧ください)。

本人の語り

WHO-QOL-26やSEIQoL-DWのような形式的なものでなくとも、対象者本人の語りや表情も十分なQOLの評価となり得ます。年月を経て、または医療者が介入したことで、対象者本人から語られる言葉が変化するのかどうかは非常に重要です。特に、面接や問診ではなく、何気ない会話から聞き取れた言葉には本心が表れます。それを聞き逃さないアンテナを張っておくことが医療者に求められる姿勢です。

転倒とQOL

転倒経験者は、一般的にQOLが低下していると言われています。その理由は、転倒後の恐怖感があり、「また転倒してしまわないか」という不安からできるはずの動作も行わなくなってしまう、“転倒後症候群”に陥る方がいるからです。

転倒後症候群のイメージ

QOLは身体的な要因だけでなく、心理的な要因や環境に左右されます。転倒後、特に大きな怪我はなくとも、不安や他者からの「もう1人で歩いたらダメ」という制限などで、これまで自分が大事にしていた価値観が損なわれ、QOLが低下するのでしょう。

超高齢社会の日本では、QOLの維持のためにも、転倒予防と転倒後症候群にならないためのリハビリテーションが重要となります。

まとめ

  • ・QOLは現代の医療の重要な指標となっている。
  • ・QOLは個人の身体機能や価値観、環境に左右される。
  • ・研究が進み、QOLの定量的な測定も可能になってきている。
  • ・転倒経験は、QOLを低下させる。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を監修しました

岡川 修士

岡川 修士 / 理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級・地域ケア会議推進リーダー・介護予防推進リーダー

2010年に理学療法士として入職した病院では、急性期〜回復期のリハビリテーションに加え、住民対象の介護予防事業に携わっていた。現在は、訪問看護ステーションかすたねっとにて、訪問リハビリに従事する傍ら(株)Magic Shieldsのコラムを担当している。

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