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「裁判になったら具体的にどんな負担があるのか気になる」「転倒事故による訴訟を防ぎたい」など訴訟リスクから職員を守りたいと思っている福祉事業者の方は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、福祉事業者のサポートに特化している弁護士の畑山 浩俊 先生に「転倒事故の訴訟リスクに備える方法」を解説していただきましたので、そのウェビナーの内容を紹介していきます。
また、株式会社 Magic Shields 理学療法士 稲垣 ひかり氏より、転倒による重大事故を防いでくれる商品「ころやわ」の紹介もしていきます。
介護福祉事業と訴訟

日本を支えるインフラである介護福祉事業。
福祉事業がなければ、今後の日本は成り立たないと思います。
しかし、重い転倒事故が起こった場合に訴訟リスクが高まったり、ご利用者様やご家族の権利意識の高まりによりカスタマーハラスメント化しがちであったりして、対応が困難な事例が増えているのが現状です。
「働きやすい福祉の現場をあたりまえにする」をモットーに活動されている弁護士の畑山 浩俊 先生より、訴訟リスクの備え方や事例について詳しくご説明いただきましたので、次の章から順々に紹介していきます。
転倒事故に関する裁判例の分析

民事裁判の結末はひとことでいうと、金銭賠償の原則となります。
ここからは、どういったときに賠償責任が生じるのか、賠償問題や過失の概要について解説していきます。
賠償問題の全容
賠償問題の全容は、次の通りです。
①故意・過失
裁判で一番のキーポイントとなるのが「過失」です。
例えば、転倒事故が起こったときに「転倒」という結果が生じる過程において、事業所側の過失があったかということです。
②権利・法益侵害
人の体(権利)に対して、重大な結果が生じているということになります。
③損害
事故によりどれくらいの損害が生じたかということになります。
例えば、入院により、時間や費用が奪われたなどが該当します。
④因果関係
事故と関係があるか否かになります。
例えば、転倒事故が死因につながるか等、事故をきっかけに重大な結果に結びついたのかという点です。
⑤過失相殺
事故発生の起因が、患者さんや利用者さんにある場合、賠償額の減額につながります。
過失とは
裁判でいう「過失」とは、注意義務に違反したということになります。
注意義務=予見可能性(生じる結果が予見できたか否か)+結果回避可能性・結果回避義務
(回避するために必要な対応ができたか否か)
上記の結果回避義務が満たされていない場合に、注意義務違反と判断されます。
訴訟の事例

ここからは、過去に起こった訴訟の事例を3つ紹介していきます。
ケース①
ある老人ホームで裁判に発展した事例を紹介していきます。
利用者Aさんの状況
- パーキンソン症候群から転倒リスクが高い方
- これまでも転倒リスクが高い方であることから、「トイレ等動かれたい場合には、スタッフが付き添いますのでナースコールで必ず呼んでくださいね」と言っていた
- 過去、同様の転倒事故が発生していた
【事故の流れ】
ナースコールが鳴ったのでスタッフがかけつけたところ、Aさんはすでに転倒していました。
それ以降、状態が悪化し、Aさんは急性硬膜下血腫となってしまいます。
その後、手術を行いますが、意思疎通ができない植物状態に。
数年後には急性硬膜下血腫が原因で死亡してしまうのです。
【裁判結果】
1回目に転倒事故がおこったときに2回目の転倒事故が予見できたとし、また回避のための義務を怠ったとして、安全配慮義務違反とのことで損害賠償請求が出されました。
今回の争点となったのは以下でした。
- ・介護施設側に過失があったのか
- ・2回目の転倒事故が起こることを予見できたか。予見できたとしたらどうやって回避できたか
上記2つの争点により、介護施設に過失があったと判断されました。
今回の事例からも、一度、転倒事故が起こった際に、それを次に防ぐために何をすべきなのか考えることが大切といえます。
また、裁判では後出しで出される「やっておくべき事故予防対策」のうち、ひとつでもヒットしてしまうと事業所側は過失があると判断されてしまいます。
ケース②
次に、デイサービスで裁判に発展した事例を紹介していきます。
Bさんの状態
- ・なにかにつかまらなければ立ち上がることはできず、必ず杖を支えに立ち上がる
- ・杖をついて歩行することは可能だが不安定でいつ転ぶかわからない状態
【事故の流れ】
トイレまでの付き添いに対し、「ひとりで大丈夫」と介助を拒絶するBさん。
しかし、「トイレまでとりあえずご一緒しましょう」と言いトイレまで歩行の介助をスタッフが行いました。
その後も、Bさんは「自分一人で大丈夫だから」と何度も言うので、スタッフは一旦付き添いを離れることに。
その後、単独でトイレに入ろうとし、転倒してしまいます。
転倒後、右大腿骨頚部骨折の傷害を負うことになってしまいました。
【裁判の結果】
争点となったのが、利用者様より介助を拒否された場合、介護義務がなくなるのかという点でした。
こちらは、結論から申し上げますと「容易に介護義務はなくならない」とのことで、一千万円を超える賠償命令が下されました。
この事例から、ご利用者様から介護拒否があった場合、ご本人の意向に沿った形であったとしても、介護義務がなくなるケースはほとんどないということがわかります。
ケース③
最後に、病院で裁判に発展した事例です。
入院患者Cさんの状態
- ・前頭側頭型認知症
- ・感情が不安定
- ・転倒リスクが高い
- ・意思能力・判断能力に問題ない
【事故の流れ】
朝、キャッチセンサーが鳴り、スタッフが訪室。
体感ベルトを外してトイレに誘導しましたが、その後、別室の患者からのナースコールを受け、Cさんをトイレに座らせた状態でその場を離れました。
Cさんの元を離れている間に、転倒事故発生。
その後、外傷性くも膜下出血及び頭蓋骨骨折の傷害
【裁判結果】
別室の患者から離れる際に休憩中の他のスタッフに対応をお願いするなどの対応が必要だったのではないかとし、結果回避義務違反として賠償義務が命じられました。
転倒事故発生時における事後対応のポイント

事象発生時の対応原則は以下になります。
- 事故・トラブル・不祥事発生
- 謝罪(共感・道義的責任)
- 原因分析・調査
- 報告・再発防止策の提示
- 謝罪(法的責任・賠償対応検討)
こちらのステップを適切に踏んでいることが、訴訟リスクを低減させます。
ここからは、一つずつ解説していきますので、ぜひご参考にしてみてください。
事故・トラブル・不祥事発生
事故が発生したら、直ちに応急処置を行いましょう。
また、時系列でご利用者様の状態や事故の状況、対応手順などを、細かく記録しておくことが大切になります。
事故の記録はなるべく記憶が新しいうちに、残すことが望ましいです。
なぜなら、訴えられた場合に弁護士を通して「証拠保全手続き」をし、記録・カルテの開示請求を求められることがあるからです。
そのときに、事実に相違があったり、記載内容に矛盾が生じたりすると、信用を失いかねません。
記録は必ず、すぐに書くようにし、適切に管理しましょう。
謝罪
ご利用者様やご家族に対しては、まず謝罪が第一です。
この初期対応は、訴訟リスクを抑えるうえで最も重要です。
この時点でお詫びの言葉を使わず、クレームに発展することもあります。
ここでの対応が重要なポイントとなるでしょう。
なかには、不用意にご家族に対し、謝罪しないほうがよいと思っている人もいます。
しかし、ここでいう謝罪は「謝罪=賠償責任」とは異なります。
トラブル発生時の謝罪の種類は次の3つです。
- ・法的責任
- ・道理的責任
- ・共感
第一に行う謝罪は「道理的責任」や「共感」のニュアンスを含むものになります。
人としての謝罪がまずは大切ですので、事故発生時直後にご家族に連絡するときには真摯に謝罪を行うようにしましょう。
ここで丁寧な対応ができると訴訟リスクを抑えることにつながります。
原因分析・調査
事故が発生したら、記録と並行して、事故発生報告書を作成します。
「事故発生報告書」は原則、当日に作成しましょう。
報告・再発防止策の提示
ご家族に事故発生の詳細を報告します。
また、再発防止策も必ず提示しましょう。
再発防止策や解決に関しては、相手から急かされても必ず正しい手順を踏んで進めることが大切です。
早期解決として、金銭を要求する場合はクレーマーと捉え、クレーマー対応に切り替えていく必要があります。
転倒事故に対する事前の備えにおけるポイント

転倒事故に対する事前の備えは大切です。
そこで、ここからは備えにおけるポイントをいくつか紹介していきます。
「責任は負いません」の誓約書に意味はあるか?
たまに「弊社は事故が発生しても一切の責任は負いません」との書類を作成し、ご家族にサインを求める事業者がいます。
しかし、こちらは無効になるリスクが高いどころか、信頼関係の構築を阻害する恐れがあります。
また、職場のモラル低下にもつながるため、おすすめできません。
「責任は負いません」の書類を作成しようと思っているのであれば、思いとどまるようにしましょう。
リスクマネジメントが行き過ぎることの問題性
さまざまな裁判事例をみると、転倒事故に恐怖を抱き「絶対に起こさないように対策しよう!」と意気込むものだと思います。
しかし、だからといってリスクマネジメントが行き過ぎると、ご利用者様の拘束につながったり、スタッフの負担が増加してしまったりする恐れもあるでしょう。
実は現場で行っているリスクマネジメントの研修内容は、十分であるという見方もできます。
訴訟リスクへの不安感から、リスクマネジメントが行き過ぎるのも考えものですので、適度なバランス感で備えていきたいところです。
弁護士との連携
訴訟リスクへの対策として、すぐ相談できる弁護士との関係を構築しておくこともおすすめです。
事前にすぐに相談できる関係を築いておけば、弁護士に事後対応の部分でも相談できますので安心です。
大きなトラブルへの防止につながるでしょう。
根本原因を解決する手段は?
裁判にならないようにどう備えていくかの思考転換が大切です。
裁判につながる多くのケースが、重傷事故です。
転倒事故が原因で重傷の結果が生じた場合、ご家族は訴訟を選択することがあります。
一方で、転倒事故だけでは、裁判に発展することはあまりないのも事実です。
そのため、転倒事故が発生したとしても大きな事故につながりにくい商品の導入を検討することも、訴訟リスクを抑える一つの手であるといえるでしょう。
解決策としての「ころやわ」

ころやわは普通のマットとは違い、見た目や触感は普通の床になります。
普段は硬くて歩きやすい床でありながら、転んだときには衝撃を吸収できる仕様になっているため、転倒事故が発生したとしても重傷な事故につながりにくいのが特徴です。
転倒・転落リスクは高齢化社会の進展に伴い増加しています。
医療・介護施設における転倒の現状として、転倒自体を防ぐのは困難であることも事実です。
そこで、転倒事故が発生してしまったとしても、重傷事故につながらないような対策にシフトしていけるのが理想的です。
「ころやわ」は、そうした現代の課題にも、ピッタリ合った商品です。
訴訟リスクへの対策をしたいと思っている人、転倒事故からご利用者様を守りたいと考えている人はぜひ「ころやわ」の導入を検討してみてください。
まとめ

訴訟リスクは、介護事業者にとって切っても切り離せない課題です。
しかし、転倒事故を0にすることは、いくら対策をしていても困難なのが現状です。
転倒による重傷事故を防止するために、今回紹介したさまざまな方法を実施して、訴訟リスクからスタッフを守っていきましょう。
今回のウェビナーついて、もっと詳しく知りたい方はぜひアーカイブ動画をご覧ください。